同窓会の夜
十五年ぶりの同窓会。昔ずっと目で追っていた同級生が、隣に座った。あいつは、結婚指輪をしていた。
十五年ぶりの同窓会で、あいつが隣に座った。
高校のとき、ずっと目で追っていた男だった。誰にも言えなかった。言えるわけがなかった。あいつはいつも女子に囲まれていて、俺は教室の隅で、その笑い声を聞いているだけの人間だった。卒業してから、一度も会っていない。忘れたつもりでいた。忘れられると思っていた。
久しぶり、と笑うその顔に、十五年ぶんの時間が乗っていた。少し老けて、少し落ち着いて、それでも、俺がずっと覚えていた笑い方のままだった。左手に、結婚指輪が光っていた。
会は、盛り上がった。昔話。近況。誰それが偉くなった、誰それが離婚した。俺は、あいつのグラスが空くたびに、注いだ。それくらいしか、できることがなかった。
二次会が終わって、駅までの道を、なぜか二人だけで歩いていた。
「お前さ」あいつが、夜道でふいに言った。「高校のとき、いつも俺のこと見てただろ」
足が、止まった。
気づいて、いたのか。
「悪い」あいつが笑った。「気づいてないふり、してた。……俺も、なんか、意識してたから」
言うなよ、と思った。十五年、俺がどうやってこれを埋めてきたか。今さら掘り返すなよ。あいつは既婚で、俺は独りで、もう、どうにもならないのに。
街灯の下で、あいつが立ち止まった。結婚指輪をした手で、俺の腕を、そっとつかんだ。十五年前には、絶対に届かなかった距離が、そこにあった。
「今夜だけ」あいつが、低い声で言った。「高校のときの続き、してみないか」
十五年前の俺が、行け、と背中を押していた。俺は、指輪の光った手を、そっと握り返した。高校の教室の隅で息を殺していた自分が、ようやく、報われる気がした。