深夜の当直
月に何度かの、二人だけの夜勤。無口な先輩と、仮眠室のふたつのベッド。眠れない夜が続いていた。
月に何度か、その人と二人きりの夜勤になる。
無口な先輩だった。用件以外はほとんど喋らない。でも、仕事は丁寧で、後輩の失敗を、決して人前で責めない人だった。俺は、その背中を、たぶん入社したときから目で追っていた。
深夜二時。ひととおりの作業を終えて、仮眠室に入る。ふたつ並んだ、簡素なベッド。先輩が先に横になって、俺も向かいのベッドに寝転がる。灯りを落とすと、暗闇のなかに、機械の唸りだけが残る。
眠れなかった。ここ何回かの当直、ずっと眠れていない。理由は、わかっていた。
「眠れないのか」
暗闇のなかで、先輩の声がした。低い、静かな声。起こしちゃいましたか、と俺は言った。いや、と短い返事。
「最近、顔色が悪い。無理してないか」
心配してくれているのだと、わかった。この人は、いつもそうだ。言葉は少ないくせに、ちゃんと見ている。だから、こっちも隠せなくなる。隠したいことが、こんなにあるのに。
「先輩は」俺は、暗闇に向かって言った。「眠れてますか」
しばらく、返事がなかった。空調が、ひとしきり鳴って、止まった。
「……最近は、あんまり」と、先輩が言った。
なぜ、と訊きたかった。訊けなかった。かわりに、俺は身体を起こした。ベッドのふちに座って、暗闇のなかの、先輩のいるほうを見た。視線が、届いた気がした。
衣擦れの音。先輩も、身体を起こしたのがわかった。ふたつのベッドの、わずかな隙間を挟んで、二つの影が、向かい合っていた。
「こっち、来るか」
先輩の声は、いつもと同じくらい静かだった。でも、その一言が、俺がずっと眠れなかった理由の、答え合わせみたいだった。俺は、立ち上がった。この夜が明けるまで、あと何時間あるのか、もう数える気もなかった。