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小説目次 / 崩れる夜 / · 約1分

引っ越しの手伝い

会社の後輩の引っ越しを手伝った。荷物を運び終えた、がらんとした新しい部屋で、二人、床に座り込んで。

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日曜の朝から、後輩の引っ越しを手伝った。

手伝いますよって言われても普通は断るのに、なぜかそいつのときだけは、俺のほうから、手伝おうか、と言っていた。会社で、いちばん気の合う後輩だった。よく笑って、俺の下手な冗談にも、ちゃんと笑ってくれる男。

段ボールを運んで、家具を組み立てて、気づけば日が暮れていた。荷物を運び終えた新しい部屋は、まだがらんとしていて、電気の傘もない。二人、疲れ果てて、フローリングの床に、直接座り込んだ。

「先輩、ほんとすいません。ビールくらいしか出せなくて」

いいよ、と俺は言って、ぬるくなった缶を受け取った。窓の外は、もう暗い。新しい街の、知らない灯りが、カーテンのない窓から見えた。

「なんか」そいつが、缶を両手で包みながら言った。「新しい部屋って、最初の夜、ちょっと心細いんですよね」

そういうもんかもな、と俺は言った。

「先輩がいてくれて、よかったです」

その一言を、そいつは、なんでもないことみたいに言った。俺の心臓が、なんでもなくないほど、跳ねた。

がらんとした部屋には、俺たちの声がよく響いた。座っている距離が、いつのまにか近い。肩が、触れそうで触れない。そいつが、ふと、こっちを見た。疲れて、少し赤い顔で。後輩を見る目じゃない目で、俺は、見返してしまった。

「先輩」そいつが、小さな声で言った。「今夜、泊まってきません? ……まだ、この部屋、寂しいんで」

まだ何もない、真新しい部屋の床で、俺たちの最初の夜が、始まろうとしていた。