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小説目次 / 崩れる夜 / · 約1分

最終の、隣の席

出張帰りの最終新幹線。指定席の隣に座ったのは、二年前に会社を辞めた、あの元上司だった。

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出張帰りの、最終の新幹線。

くたくたで指定席に着くと、隣に、見覚えのある横顔があった。二年前に会社を辞めた、元上司だった。厳しい人だった。でも、理不尽ではなかった。俺が新人の頃、いちばん多く叱られて、いちばん多く、こっそり庇ってくれた人。辞めると聞いたとき、俺は、思っていたよりずっと、こたえた。

「久しぶりだな」その人が、少し驚いた顔で笑った。

はい、と俺は言った。それきり、言葉が続かなかった。二年ぶんの距離が、肘掛けひとつを挟んで、そこにあった。

発車して、車内販売の缶ビールを、二本買った。どちらからともなく。窓の外を、夜の景色が流れていく。ぽつぽつと、近況を話した。あの人がいなくなってからの、会社のこと。あの人の、今の仕事のこと。

「お前、変わらないな」その人が、缶を傾けながら言った。「昔から、無理して、平気な顔するとこ」

見抜かれていた。二年経っても、この人には、全部お見通しらしい。

「あの頃さ」その人が、窓の外を見たまま言った。「お前のこと、放っとけなかったんだよな。……理由は、自分でもよくわかってなかったけど」

トンネルに入って、窓が、二人の顔を映す鏡になった。その鏡のなかで、あの人が、俺を見ていた。

「今なら」その人が、低い声で言った。「わかる気がする」

隣の席の肘掛けの上で、その人の手が、俺の手に重なった。最終の新幹線は、まだ、降りる駅まで遠かった。降りたくない、と、初めて思った。