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小説目次 / 崩れる夜 / · 約2分

親友の結婚前夜

明日、幼馴染の翔太が結婚する。前夜、二人で飲んだ帰り道。ずっと友達のままでいるつもりだった。

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明日、翔太が結婚する。

小学校からの幼馴染で、二十何年、ずっと友達だった男。そいつの結婚式で、俺は明日、乾杯の挨拶をする。何度も練習した原稿は、我ながらよく書けている。おめでとう、と心から言えるように、もう何度も声に出して読んだ。

その前夜に、二人で飲もうと言い出したのは、翔太のほうだった。

いつもの、駅裏の安い居酒屋。いつもの席。生ビールを二つ。何も特別なことのない、二十何年ぶんの続きみたいな夜。翔太は、結婚の話をあまりしなかった。俺も訊かなかった。ただ、昔の話ばかりした。中学のときの、しょうもない話。二人で自転車を漕いで、どこまでも行けると思っていた頃の話。

店を出て、帰り道を歩いた。

「なあ」翔太が、夜道でふいに立ち止まった。「俺さ、明日から、ちゃんとやれるかな」

やれるよ、と俺は言った。お前なら、と。

翔太は、しばらく黙っていた。街灯の下で、その横顔が、なんだか泣きそうに見えた。酔ってるんだろう、と思った。そう思うことにした。

「お前がいちばん近くにいてくれて」翔太が言った。「俺、それが当たり前だと思ってた」

これからも近くにいるよ、と言おうとした。友達だろ、と。その、いつもの言葉で、この夜を、いつものように終わらせようとした。

でも、翔太がこっちを見た目が、いつものそれじゃなかった。

「明日が来なきゃいいのにって、思ってる俺は」翔太が、掠れた声で言った。「最低だよな」

言うなよ、と俺は思った。今、それを言うなよ。二十何年、俺がどうやって飲み込んできたか、お前は何も知らないくせに。

夜風が吹いて、二人のあいだの、たった数十センチの距離を、ゆらした。翔太が、一歩、詰めてきた。

明日、俺はこいつの結婚を祝う。心から。

でも、今夜だけは──と、そう思ってしまった俺を、たぶん、一生許せない。翔太の手が、俺の頬に触れた。その手が微かに震えているのに気づいて、俺は、目を閉じた。明日の祝辞のことは、もう、頭になかった。